下ノ川原ニ居リマス

名ばかり事務所「オフィス カッケン」から、身の回りのこと、いきもののことなどをメモしてゆきます。

はぐろの山のかざぐるま

はぐろ山に風力発電用の風車が建つかもしれない、ということでこの町の一部はにわかに騒がしくなっている。
僕個人としては現時点で「やめたほうがいいと思うよ」という意見であり、本件に関する情報収集も行ってはいる。


本件については、「民間事業者が法に基づきアセス手続きの初期段階」として「市や町が窓口となっての縦覧が開始」され、「事業者に対する意見を求めている」という状況にある。
わがまちでは、市広報8月号で縦覧がはじまることが告知され、お盆前あたりで急にFacebook(やそれに伴いtwitter)で盛り上がりはじめた、という印象だ。

そのきっかけになったのが、山形大学農学部名誉教授の野堀教授がHPに意見やイメージ図を公開したことだ。

http://nobo.world.coocan.jp/Wind-power_generation_Syonai/
http://nobo.world.coocan.jp/Wind-power_generation_Syonai/assess.html

(僕が言う筋ではないが)とてもよくまとまっており、特に事業の評価に対するご意見は頷くばかりだった。

環境影響評価法に基づく影響評価、いわゆる環境アセスメントについては、仕事柄ある程度身近であったこともあり、事業そのものに加えて「一般市民がこれにどう反応するか」という点でも興味深く見ている。

別の言い方をすれば、正直、辟易している。
事業に反対するお立場の方が多く声を挙げているのはわかるが、「市議が丸め込まれている」だの「地元選出議員が主導している」だの「市も推進の立場だろう」だの「既に工事期間まで決まっているのだから建設ありきだ」だの、陰謀論や根拠のない思い込みばかりが目に入り、うんざりしている。
反対したいのなら実のある反対のための行動をすればよい。今、陰謀論を振りかざしてそうだそうだと言い合うことに、どんな意味がある?

もっと言えば、健康面やワクチン方面でデマ発言を繰り返す三宅某氏もこの件に言及し、根拠のない(少なくとも事業者HPからは読み取れない)内容を放言している。
https://twitter.com/MIYAKE_YOHEI/status/1295691748593635329?s=20
スエズ社が前田建設工業と提携しているのは上下水道部門じゃないのか? どうしてスエズ社が風力に参入してきたと思った? 

閑話休題

はぐろの御山に風車が建つなんて信じられない、考えられない、という感情そのものは、この土地の出でない僕にとって心から理解できるものではない。共感はするし、尊重しようとも思うけれど、多分この土地に生まれ育った皆さんほど深刻には捉えられていないと感じる。生まれだけを理由にするつもりもないが、ひとつの要因として。
一方で、自然度の高い樹林帯を攪乱して風車を建設するのには嫌悪感を覚えるし、山の上の方で弄られた土砂は下流の川へも影響を及ぼしそうで、河川環境の面からも懸念があると感じる。

また先の野堀教授のHPにもあるように、環境影響評価法の成立経緯から、歴史的・文化的な価値に対する評価軸が欠けていることは大きい。今回の事業地が山岳信仰の地であり、景観という側面からだけでなく、風車の存在そのものが土地のひとびとに嫌悪を抱かせる状況にある中で、その点をどう評価すべきかという問題も生じている。

今回の対象地のように、出羽三山という宗教上の聖地に事業展開しようとする場合は「歴史的・文化的」価値に対する影響評価が必要不可欠だと考えます。

問題意識の持ち方はそれぞれでよく、今はそれを自分なりの言葉で事業者に伝える段階なのだから、そうしましょう、という話。

「おしゃれ好きのサギ」でいいのか?

信じられない新聞記事を見かけたのでメモしておく。読売新聞web版、2017年2月14日。

サギのサーちゃん、おしゃれ好き…洋服店に毎日 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
f:id:kawarani:20170214225348p:plain:w400
写真は【ニュース写真】:写真:読売新聞 読売新聞(YOMIURI ONLINE)より

キャッシュ保存ができなかったので、以下に全文を引用する。

 山形県鶴岡市中心街の山王商店街にある紳士用洋服店の店先に、“おしゃれなお客さん”が現れ、人気を集めている。
 胸に蝶ちょうネクタイ、目の後ろには帽子をかぶったような青い模様がある、ダンディーないでたちの野生のサギだ。サギの「サ」をとって、「サーちゃん」の愛称で親しまれている。
 レトロな店構えが特徴の「カジュアルショップ GINYO 827」に、サーちゃんが現れるようになったのは7、8年前。道路をはさんで道の隣を流れる内川の“住人”で、女性店員が店先に集まるトンビに餌をやっていたところ、サーちゃんが交じってきて、そのうち1羽で店先に姿を現すようになった。
 一時は店の中まで入ってきて餌を食べることもあった。今は店内に入ってくることはなくなったが、店内をのぞくようなしぐさで、餌をねだることもあるという。
 店を経営する佐藤勝三さん(75)は「今では毎日のように来てくれるようになった。かわいいね」といとおしそうに見つめていた。
2017年02月14日 10時08分

実際に現場を知っているし、前から嫌だなあと思っていたのだが、まさかこういう「いい話」として取り上げられるとは予想していなかった。
この記事の問題点は大きく2点あると僕は考える。
「野生動物への餌付けを行っている点」と「それを無批判に(むしろ美談として)扱っている点」だ。

1.「野生動物の餌付けを行っている点」について

記事中のサギもトビも野生動物であり、人間のペットではない。野良犬がそこらをうろついていたり、川にばんばん魚を放流していたのが当たり前だった一昔前ならいざ知らず、野良猫に餌をやって近隣住民とのトラブルになったり、外来生物の問題が普通に聞かれるようになった現在において、「自分で飼育していない動物に餌をやること」はいけないことだ。
餌を食べる姿がかわいい、おなかをすかせてかわいそう……そういった感情そのものは否定されるべきではないし、僕も否定するつもりはないが、それと「だから餌をやっていい」かは全く別の話だ。人間として、責任のある関わり方ではないと思う。

2.「餌付けを美談として扱っている点」について

むしろ問題視されるのはこちらだ。
上記1.の「人間が野生動物に餌付けをすべきでない」という前提は、一般論として新聞記者に知っておいてもらいたいと僕は思う。ましてや、現在は秋田県や西日本で鳥インフルエンザが確認されており、県からも注意喚起が行われている。加えて鶴岡市には下池・上池という渡り鳥の中継地が存在し、鳥インフルが発生した場合の被害は非常に大きい。鳥インフルは渡り鳥等が集まる場所での発生・傷病リスクが高く(集団感染の危険がある)、野生鳥類だけでなく養鶏業などにも甚大な被害が発生するため、ハクチョウへの餌まきを中止した――なんていうニュースもある。
例えばこれは青森県の注意喚起。
ハクチョウ等への餌付け自粛について|青森県庁ウェブサイト Aomori Prefectural Government

こんな状況下で、鳥への餌付けを取り上げ、無批判どころか「いとおしそうに見つめていた」なんていい話に仕立て上げようという新聞記者の気が知れない。大手メディアとしてのリスク意識が低すぎる。

メディアの扱う「いきもの系ニュース」の問題点

いきものや野生動物を取り上げたニュースは、たいてい季節のほのぼのニュース枠として扱われることが多い。ネタのない時期でも毎年定期的に話題になるし、取材すれば大抵詳しいひとが教えてくれるから記事にするのも楽なのかもしれない。
ただし、その「詳しいひと」が正しい保証も全くない。新聞記事に登場する”有識者”がとんちんかんなことを言っている例はごまんとある。
これはメディアに限らない話だけれど、いきものに関わる知識が専門分野として扱われていないことを強く危惧している。
今回の記事も、種名の「アオサギ」すら出てこない時点で、書き手が「いきものとしての鳥」に興味がないことが想像できる。いちいち専門家がチェックを入れることが非現実的だということはよくわかるので、社内の科学班の校正を通すとか、最低限のレベルを担保してほしい。